日本バイオシミラー協議会 第2回理事長対談
「医療機関におけるバイオシミラーの理解・使用促進と病院薬剤師の役割」
石井 伊都子先生(千葉大学医学部附属病院薬剤部長/同大学薬学研究院病院薬学研究室教授)、黒川 達夫(バイオシミラー学会理事長)

 薬局において先発品からの切り替えが可能なジェネリック医薬品と異なり、先行のバイオ医薬品からバイオシミラーへの切り替えを促進させるためには、医療機関の理解と協力が不可欠です。そこで今回は、千葉大学医学部附属病院薬剤部教授 薬剤部長/同大学薬学研究院医療薬学研究室教授の石井伊都子先生に、病院薬剤部・薬剤師の立場から現状のバイオシミラー使用状況、採用例や採用に際しての課題や問題点、更には使用促進・普及に向けた提言までを、黒川達夫日本バイオシミラー協議会理事長が伺います。(対談日:2018年9月20日)

  • 医療機関におけるバイオ医薬品とバイオシミラーの現状
  • 行政、製薬会社、協議会への要望と期待
  • バイオシミラー、今後の展望

バイオシミラー、今後の展望

千葉大学医学部附属病院のバイオシミラー採用例と採用状況

黒川 終盤になってしまいましたが、貴院の採用例などについてご解説いただけますでしょうか。

石井 はい、まずは「フィルグラスチム」の事例です。これは抗がん剤を投与して骨髄抑制がかかった患者さんに投与するG-CSF製剤ですが、わかりやすいように75μg製剤と300μg製剤を比べてみます。赤が先行品で、青がバイオシミラーです。75μg製剤は、抗がん剤の支持療法という形で使うものですが、併用して使ってもらい、大丈夫といったところで切り替えてもらいました。何の問題もありません。
 では、フィルグラスチムの300μg製剤は何に使うのかと言うと、造血幹細胞の末梢血への動員に使います。特に非血縁者ドナーには先行品を使うことがガイドラインで推奨されていましたので、300μg製剤のバイオシミラーを併採用し、並行して使ってもらいました。
 これを私がいろいろな講演でもお話している理由を申し上げますと、2014年12月に切り替え、2016年5月に先行品の使用量がバッと上がっていますよね。これは私たち薬剤師の失敗です。大学病院は医師が春と秋に異動になりますが、私たちは医師に定着したと思い、ここからさっと全部切り替えられるかと思ったら、新しく入ってきた医師は先行品があるなら先行品を使うと言って、われわれの考え方、病院の考え方を理解しないままに先行品が使われてしまったのです。
 2017年11月に日本造血細胞移植学会より出されたフィルグラスチムバイオシミラーに関する見解をもとに、血液内科から「全面切り替えでいいですよ」という形になりました。その後は、常に医師とコンタクトを取り、異動をした場合には当院での指針とともに情報を提供し、エビデンスを示してお話をしています。われわれの失敗を通して皆さんにおわかりいただこうと思っています。

バイオ医薬品の特徴

 一方、問題なのが、「インフリキシマブ」です。これは併採用のまままったく動きません。なぜかと言うと、ここが適応の問題です。インフリキシマブは添付文書を見ていただくと、複数の適応があります。しかし、バイオシミラーには半分ぐらいしか適応がありません。ですから、やはり使いづらい。なかには積極的に使ってくださっている医師もいますが、その方はご自分の学位論文で抗体を作っていたからバイオシミラーの意味がよく分かるので、抵抗なく使用できるということでした。しかし適応が複数あると、普及がなかなか進みにくいというのが現状です。

バイオ医薬品の特徴

黒川 現在の採用状況と見通しを教えてください。

石井 今は基本的にバイオシミラーが出ているものに関しては切り替えが進んでいますが、併採用が多く、完全に切り替えられているものは、フィルグラスチムとインスリングラルギンだけです。あとはなかなか進みません。適応が1個しかないものは併採用ではない形で、どうしてもこの患者さんはここまで先行品を使いたいとなれば、医師と相談して、あとはそこから切り替えてもらう形になります。もう2~3年はかかるかもしれませんが、全面的に切り替える予定です。

黒川 バイオシミラー導入のため、他の病院から貴院薬剤部への問い合わせが多いと伺いました。

石井 はい。数多くいただいています。問い合わせがあれば、全部、手の内を明かしています(笑)。

限られた医療資源の中、今後、バイオシミラーは大きな存在価値を持つ

黒川 最後にぜひ、バイオシミラーの今後について、大局から見たお話をしていただければ、と思います。

石井 今、日本の国は、十分な予算がない状況です。私も最初は、とにかく自分が勤める病院の薬剤費を下げるという狭い話だったのですが、本当にこれは危ないと心の底から思います。限られた医療資源の中で、しかし限られたといっても、患者さんに有益な薬はどんどん使っていき、国民の健康を守るのが民主主義の成熟した国だと思います。国民の健康をしっかりと守っていくという観点から、国は切羽詰まった状況をもっと訴えてもいいと思うのです。赤字予算、赤字予算と簡単に新聞紙面やニュースでは流れていても、何ができなくなってしまうのかが、あまり伝わってこないですよね。
 そういった意味で、バイオシミラーは今後大きな存在価値を持ち、医療費削減に大きな役割を果たしていくことでしょう。そこをきちんと行政も、病院など医療現場の者も、患者さんに正しくわかっていただくように、まずわれわれがしっかり理解し、次に広く国民に理解してもらうことが必要だと思います。

黒川 私ども日本バイオシミラー協議会は、そもそもは「医療上のインパクトを有し科学の結晶であるバイオ医薬品を、どうaffordable(手頃な価格)でaccessible(アクセス可能)なものにしていくか」を活動指針にしております。承認だけしていた米国も今年2018年7月、いよいよ本格的な取り組みを始めました。世界的にバイオシミラーのaccessibilityやaffordabilityが高まってくる可能性があります。そういう動きの中で、私どもは今後も日本の患者さんにベストの治療法をより使いやすく、あるいは利用しやすくしていただく、そのために引き続き努力をしていきたいと思います。
 石井先生には協議会発足当初から大変お忙しい中、お力添えをいただいています。また本日は貴重なご経験談やご提言をいただきました。本当にありがとうございました。

石井 こちらこそ、ありがとうございました。

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●石井 伊都子(いしい いつこ)
1988年千葉大学薬学部卒業後、千葉大学薬学部生化学研究室教務職員、助手を経て、1999年、米国National Institute of Health博士研究員。2001年千葉大学大学院薬学研究院、2003年病院薬学研究室准教授、2012年9月、千葉大学医学部附属病院薬剤部教授 薬剤部長/同大学薬学研究院医療薬学研究室教授に就任。薬学博士。


●黒川 達夫(くろかわ たつお)
1973年千葉大学薬学部卒業後、厚生省(当時)入省。薬務局 監視指導課等を経て、WHO職員。その後、科学技術庁、厚生省大臣官房国際課、医薬品審査、安全対策課長、大臣官房審議官等を歴任。2008年より千葉大学大学院薬学研究院特任教授、慶應義塾大学薬学部大学院薬学研究科教授。2016年より日本バイオシミラー協議会理事長。薬学博士。