令和4年度診療報酬改定では、後発品使用促進を目的とした加算点数の変更、対象範囲の拡大が図られました。この改定が臨床現場に及ぼした影響、適正なバイオシミラーの普及という観点での課題、ステイクホルダーに求められる取り組みについて、横浜市立大学附属病院薬剤部 副薬剤部長であり、日本フォーミュラリ学会モデル・フォーミュラリ委員会委員長の小池博文先生にお話をうかがいました。
(対談日:2023年2月15日)
バイオシミラー普及に対する令和4年度診療報酬改定のインパクト
-令和4年度診療報酬改定において、バイオ後続品導入初期加算の対象が外来化学療法等を受ける患者にも拡大されましたが、病院内の影響はいかがでしたでしょうか。
バイオ後続品導入初期加算の対象に外来化学療法における抗腫瘍薬やインフリキシマブが追加されましたことは診療科の先生方に動機づけを行うなどの点でインパクトはありましたが、当初、院内ではこのことはあまり知られていませんでした。そこで、2022年5月に「バイオ後続品(バイオシミラー)使用促進について」という院内通知(図1)を薬事委員長、化学療法センター長、薬剤部長の連名で発出しました。発出後も、バイオシミラー(以下、BS)使用促進の方針を認知していない先生方がいらっしゃいましたので、同年10月にこの通知を再度発出しました。加えて、電子カルテ上のレジメンオーダーシステムを工夫し、先行品を含む処方には【継続患者用】と表示するようにし(図2)、新規患者に処方された場合は薬剤部からBSを含むレジメンに変更を依頼するようにしました。なお、当院の場合は病名とレジメンがリンクした設計になっていますので、適応を取得していないBSが誤って処方されることはありません。このような取り組みを推進できたのは、診療報酬改定の後押しがあったからだと思っています。
通知の発出者に化学療法センター長が名を連ねたこともあり、その後、化学療法センターでのBSへの置き換えは順調に進みました。
-外来化学療法センター以外でのBS使用推進の状況はいかがでしょうか。
がん治療は、高額療養費制度を利用しても患者さんの経済的負担が重いですから、担当医師は少しでもその負担を軽減するためにBSを推進する姿勢でした。一方、自己免疫疾患などでは公費負担となる患者も多く、経済的負担の軽減というインセンティブが働きづらいため、今回の改定に対する反応は鈍い状況にありました。その対策として、1つは医師の要望にできるだけ沿ったBS製剤に採用を変更するとともに、先行品がオーダーされた際には画面上にBS使用を促すポップアップが表示されるようにしました(図3)。
バイオ後続品導入初期加算算定に関する問題と対策
-2022年4月以降のバイオ後続品導入初期加算の算定状況はいかがでしょうか。
2022年4月から6月までのバイオ後続品導入初期加算の算定状況については、大学病院では非常に低調だとする見解もあります。ただ、導入初期加算を算定していないだけで、BSは導入しているという施設が相当数にのぼると推察しています。その要因には、算定入力を医師に担わせていること、算定期間が導入から3ヵ月間に限定されていること、BSを使用することについて患者の同意を取得する必要があることなどが想定されます。外来診療で多忙な医師に、これら全て担うよう求めることには無理があります。
こうした問題に対し、医師、看護師、薬剤師、医事課職員が連携し、算定の要否、算定回数の確認を医師以外が担うことで、医師の負担軽減を図っています。患者の同意取得にはメーカーから提供された患者指導戔を活用し、同意書を電子カルテ上に載せ医師が手書きする手間を省いています。
-バイオシミラー普及という観点に立った診療報酬上の課題と医療従事者に求められる取り組みについてのお考えをお聞かせください
バイオ後続品導入初期加算が対象薬となる先行品の薬価の高低に関わらず一律に設定されている点、BSで得られる薬価差益が先行品よりも少ない可能性のある点がBS普及における課題だと考えています。
前者については、対象薬の薬価に基づきカテゴライズし、それぞれにインセンティブに相応しい点数を設定する方法があると思います。あるいは、後発医薬品使用体制加算のように、包括的なシェアを軸とした評価も有効だと考えられます。一方、BSを使用しているのにバイオ後続品導入初期加算を算定していない施設があるとすれば、その理由を精査する必要があります。
後者については解決が難しい問題ですが、今後はさらに薬価差が縮まっていく傾向であると考えられます。また、医薬品購入費そのものが伸長している病院も多いと思わるので、BSを導入することで購入額全体の抑制をしていく必要があります。
したがって、将来的には薬価差益を収益の柱に据える医療機関経営モデルは厳しくなると思われます。このことを早い段階で見極めることが特に経営層にとって必要です。同時に、医師のタスクシフト/シェアを進めるためにも、外来処方は積極的に院外にシフトする方向で経営に貢献しなければならないと考えています(表1)。
-行政、製薬企業に対して、どのような要望や期待がありますか。
行政に対しては、高額療養費制度や公費負担のあり方について、BSで対応できる適応症については改めてほしいと考えています。製薬企業に対しては、ジェネリック医薬品のように現場ニーズに即した剤形、製品規格をラインナップに備えること、特に、保管管理が容易な製剤の開発を期待しています。また、安定供給については新型コロナウイルス感染症の世界的大流行のこともあり、多くを輸入に頼るBSにおいては十分な流通在庫を確保するような取り組みが大切です。加えて、BSに限ったことではありませんが、人口が少ない地域においても安定供給ができるような流通体制の改善も必要だと考えます。製薬企業の中には自社ホームページに現有在庫量などの流通状況を開示している企業もありますので、われわれ医療従事者の安定供給に対する不安を払拭できるよう、業界全体で同様の取り組みが標準化されることを期待しています。
-最後に、フォーミュラリ制定が進む中で、どのような要件がバイオシミラーには求められますか。
フォーミュラリでは患者にとって最も有効で安全かつ経済的な医薬品を推奨薬として定義しています。地域医療での運用を前提とした場合、血圧降下剤や糖尿病治療薬など慢性疾患の治療薬が対象となりますが、バイオ医薬品ではインスリン製剤が該当します。BSをフォーミュラリの推奨薬に選定するには、有効や安全性が同等/同質であることに加えて、投与デバイスの利便性・簡便性が担保されており、さらに患者向けの情報提供ツールが整備されていることが求められます。
●小池 博文(こいけ ひろふみ)
1995年東京理科大学薬学部製薬学科卒業、横浜市役所に入庁し横浜市立市民病院薬剤部に勤務。横浜市衛生局地域医療課(行政職)を経て、横浜市立大学附属病院に勤務、2017年に同病院 副薬剤部長に就任。日本フォーミュラリ学会 副理事長、日本ジェネリック医薬品・バイオシミラー学会 評議員。